洋式トイレのレバーを引いた時、水が静かに吸い込まれるように流れるタイプもあれば、渦を巻きながら勢いよく流れるタイプもあります。この流れ方の違いは、単なるデザインの問題ではなく、便器内部に隠された「洗浄方式」という水の通り道の構造そのものが根本的に異なるために生じています。この見えない部分の設計思想が、トイレの静音性や洗浄力、そして詰まりやすさにまで影響を与えているのです。 現在、日本の家庭用トイレで主流となっているのが「サイホン式」と呼ばれる構造です。このタイプの便器は、内部の排水路が意図的にS字状に曲げられています。水を流すと、このS字管が水で満たされ、理科の実験でおなじみのサイホン現象が発生します。管の中の気圧が下がり、それによって生まれる強力な吸引力で、溜まった水ごと汚物を一気に吸い込んで排出するのです。水が溜まっている面(水たまり面)を広く取れるため、汚れが付きにくく臭気も抑えられ、動作音が静かであるというメリットがあります。しかし、その構造上、排水路が細く曲がりくねっているため、一度に大量の紙を流すと詰まりやすいという側面も持っています。 一方、古い建物や一部の公共施設などで見られるのが「洗い落とし式」です。こちらは非常にシンプルな構造で、タンクから落ちてくる水の勢い、つまり落差のエネルギーだけで汚物を押し流します。排水路が比較的太くストレートなため、詰まりに強いという大きな利点があります。しかし、水の叩きつける音が大きく、水はねしやすいことや、水たまり面が狭いために便器が汚れやすいといった点がデメリットとされています。 近年ではこれらの方式をさらに進化させ、便器の縁から渦を巻くような水流を発生させる「トルネード洗浄」方式なども登場しています。これは、少ない水でも便器の内側全体を効率よく洗い流すための構造で、優れた節水効果と洗浄力を両立させています。一見同じように見える白い陶器の中には、水をいかに巧みに操るかという、メーカー各社の知恵と技術が詰まった多様な構造が隠されているのです。