トイレのタンクから微かに「チョロチョロ」「サー」という水の流れる音が聞こえ続ける。タンクの中を覗くと、水は供給されているのに、なぜか一定の水位から一向に増える気配がない。これは、トイレの水がたまらないトラブルの中でも特に原因が特定しにくい厄介なケースです。この現象の裏には、本来タンクからの水漏れを防ぐための重要な安全装置である「オーバーフロー管」の異常が隠れている可能性があります。 タンクの内部には、給水管やボールタップと並んで、一本の細長い筒が垂直に立っています。これがオーバーフロー管です。その役割は、万が一ボールタップが故障して給水が止まらなくなった際に、溢れた水を受け止めて便器の中に直接流し、床が水浸しになるのを防ぐという、いわば最後の砦です。通常、この管のてっぺんの高さが、タンクの正常な満水位置として設定されています。 しかし、このプラスチック製のオーバーフロー管は、長年の使用による経年劣化で脆くなり、目に見えないほどの小さなひび割れ(クラック)が入ったり、根元の接続部分が破損したりすることがあります。すると、どうなるでしょうか。タンクにたまる水は、オーバーフロー管のてっぺんまで到達する前に、その破損した箇所から管の内部へと漏れ出してしまいます。そして、そのまま便器へと流れ続けてしまうのです。結果として、タンクの水位はその破損箇所の高さ以上には決して上がらず、「水は供給され続けているのに、いつまで経っても満水にならない」という奇妙な現象が発生します。 このトラブルは、フロートバルブのチェーンの絡まりなどと異なり、部品の位置を調整しても改善しません。また、破損箇所が水位より下にあるため、一見しただけでは発見が非常に困難です。もし原因不明のまま水が流れ続ける音が止まらない場合は、このオーバーフロー管の破損を疑ってみる価値があります。ただし、この部品の交換はタンク自体を取り外す必要がある大掛かりな作業となるため、個人での修理は推奨されません。異変に気づいたら、被害が拡大する前に速やかに専門の水道業者に点検を依頼することが最も賢明な判断と言えるでしょう。