それは十年に一度と言われる猛烈な寒波が日本列島を襲った日の朝のことでしたが目が覚めて何気なく向かったトイレで私の平穏な日常は一瞬にして崩れ去りました。いつものように用を足し洗浄レバーを回したのですがそこにあるはずの水の流れる音が一切せずタンクから水が供給されないという異常事態に気づいた瞬間の血の気が引く感覚は今でも忘れられません。便器の中を覗くと底に溜まっている水がカチカチに凍りついており昨日までの当たり前の生活がいかに脆弱な基盤の上に成り立っていたかを痛感させられました。慌ててインターネットで解決策を検索しましたがそこには熱湯をかけてはいけないという警告の文字が並んでおり私は焦る気持ちを抑えながらキッチンのガスコンロで大量のぬるま湯を作り始めました。トイレという狭い空間の中で給水管に古いタオルを巻きつけ一杯ずつぬるま湯を注いでいく作業は果てしなく続き寒さと不安で指先が震える中での孤独な格闘となりました。作業を始めてから一時間が経過しても止水栓付近の氷は溶ける気配を見せず私は洗面所からドライヤーを持ち出して温風を当てる作戦に切り替えましたがゴーという乾燥した音が虚しく響くだけで状況は一向に改善しませんでした。そのうちトイレの中の室温を上げることが先決だと思い至りリビングで使用していた小型の電気ストーブを無理やりトイレに運び込みドアを閉めて密室状態にしたまま待つことさらに二時間ようやくタンクの中からゴボッという小さな音が聞こえた時の感動は言葉では言い表せないほどでした。氷が溶けて水が勢いよくタンクに流れ込み便器の封水も通常の水位に戻ったことを確認した時私は思わずその場に座り込んで安堵の溜息をつきました。しかし本当の恐怖はその後にありもし氷の膨張でどこかの配管に亀裂が入っていたら解凍された瞬間に家中が水浸しになるのではないかという二次被害への不安が頭をよぎりました。幸いにも私のケースでは目立った漏水はありませんでしたがこの一件を機に私は冬の夜には必ず少量の水を流し続けることやトイレの窓に緩衝材を貼って冷気を遮断することなどの徹底的な防寒対策を自分に課すようになりました。トイレが凍結するという事態は単に不便なだけでなく家財を失うリスクや多額の修理費を請求される恐怖と隣り合わせであり自然の驚異を甘く見ていた自分の無知を深く反省する貴重な教訓となったのです。
氷点下の朝に直面したトイレ凍結の恐怖と格闘のドキュメント