私が築三十五年の中古マンションを購入しリノベーションを決意した際に最も頭を悩ませたのが想像以上に複雑だったトイレ配管の存在でありこの経験は住まいというものの本質を考え直す大きな転機となりました。購入当時のトイレは壁排水方式で便器の後ろにむき出しの太い蛇腹管が鎮座しており見た目も古臭く掃除もしにくい状態だったためリフォームでは何としてもこの配管を隠し最新のタンクレストイレを設置したいという強い希望がありました。しかし実際に床を剥がしてみると当時の配管はコンクリートの構造体に直接埋め込まれている箇所があり配管の移動や勾配の確保が技術的に極めて困難であることが判明し理想と現実のギャップに愕然としたのを覚えています。設計士の方からはトイレ配管の位置を動かすためには床を十センチ以上も高くして二重床にする必要があると言われましたがそれでは天井高が低くなり圧迫感が出てしまうため何度も打ち合わせを重ねて妥協点を探る日々が続きました。最終的には既存の排水位置を活かしつつ便器の後ろ側に配管を隠すためのキャビネットを造作しさらに壁の厚みを調整することで見た目には配管が一切見えないスタイリッシュなトイレ空間を実現することができました。この過程で痛感したのは最新のトイレ設備がいかに素晴らしくてもそれを支えるトイレ配管というインフラが許容しなければ設置は叶わないということでありマンションリフォームにおける制約の多くは目に見えない配管から来るのだという真実です。また工事中には長年使用されてきた配管の内部に尿石が蓄積して通り道が細くなっている様子を目の当たりにし目に見えない場所のメンテナンスの重要性を身をもって知ることとなりました。これから中古マンションのリノベーションを検討している方には設備の美しさだけでなく床下や壁の裏に眠るトイレ配管の状態を真っ先に確認することをお勧めします。配管の種類や位置を知ることは自分の理想を形にするための設計図を理解することと同義でありそこを疎かにすると工事が始まってから予期せぬ追加費用や設計変更を余儀なくされることになるからです。